秋の夕方、里美と歩いたジャパニーズウォーキングの道で気づいたこと
夕食の片づけが終わった頃、窓の外はすっかり薄暗くなっていた。
玄関で靴ひもを結んでいると、台所から里美が顔を出した。
「今日も行くの?」
最近の私は、ネットで見かけた「ジャパニーズウォーキング」という歩き方を少しずつ試している。
背筋を伸ばして、歩幅を大きくしすぎず、かかとから静かに着地する。
そんな説明を読んだ程度で、細かい決まりごとは正直よく分かっていない。
それでも、秋の夕方の空気が気持ちよくて、姿勢を意識しながら歩くだけで十分楽しいのだ。
「私も行く」と言ったのは、ジャージ姿の美幸だった。
部活のない日で、宿題を終えたところだという。
玄関に出てきた私を見て、二人は同時に吹き出した。
革靴で出ようとしていたのだ。
里美に「それで歩くの?」と笑われ、慌てて履き替えた。
おっちょこちょいは相変わらずである。
和也は部屋で課題をしていて、声をかけると「あとで」と返ってきた。
結局、三人で家の近くの川沿いの道を歩くことになった。
歩き出してすぐ、私は張り切って歩幅を広げすぎ、数分で息が上がってしまった。
美幸に「お父さん、大股すぎ」と言われ、少し歩幅を小さくしてみると、肩の力が抜けて周りを見る余裕が出てきた。
街路樹の葉がところどころ色づき、街灯がつき始めた道に金木犀のほのかな香りが流れていた。
里美は健康美人の名にふさわしく、軽い足取りで先を行く。
「肩を下げて、腕を自然に振ってみて」と言われるまま真似をしてみた。
営業で毎日外を回っているのに、歩くことをこんなに意識したのは久しぶりだった。
気づいたのは、速く歩くことよりも、途中で立ち止まって空を見上げる時間のほうが印象に残ったことだ。
ほんの数十秒なのに、家の中で考えていたことが少し遠くなる。
夕方の散歩は、運動というより一日を区切る小さな時間なのかもしれない。
帰宅すると、和也が玄関まで出てきて「父さん、なんか顔がいつもより穏やかじゃない?」と言った。
特別なことは何もしていないのだけれど、少しうれしかった。
次は歩幅を気にせず、もう少し遠回りをしてみようと思う。
※この記事は創作コンテンツです。
実在の出来事をもとにした日記風の記事ではありません。

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